ブックタイトル同志社看護 第2巻

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概要

同志社看護 第2巻

セット装着により体幹の可動域が制限されるため,患者は歩行器を使用し歩行する際には,人や物にぶつからないよう周囲に注意して歩行していると述べていた。6【手術による身体への影響】:このカテゴリーは〈術後は創部と足の痛みがつらい〉〈足の筋力低下がある〉〈術後は足の痛みはないが痺れが残っている〉の3つのサブカテゴリーで構成された。患者は手術後に創部痛だけではなく,足にも疼痛が生じており,それらが術後の苦痛となっていた。また,手術後の下肢の痺れの残存や,下肢の筋力低下について述べていた。7【禁忌肢位のための日常生活動作の工夫】:このカテゴリーは〈工夫して腰を曲げずに靴を履く〉〈腰を曲げたりねじったりせずに物をとる〉〈腰を曲げずに体を洗う〉〈ベッド上側臥位から坐位は腰をねじらないようにベッド柵を使う〉の4つのサブカテゴリーで構成された。患者は腰部の可動域制限により困難となった靴を履く動作,下の物をとる動作,洗体動作,起居動作について,道具の使用や物の配置を工夫することで,禁忌肢位をとらないことを守りながら日常生活動作を安全に行うための具体的な方法について述べていた。8【日常生活動作のサポート】:このカテゴリーは〈自分でできることは自分でする〉〈できないことは看護師の手を借りる〉の2つのカテゴリーで構成された。患者は禁忌肢位をとらないことを遵守しながらも,回復に向けて自分でできることは自分でしようと取り組んでいた。しかし,自分でできない動作は無理をしないように,看護師の介助を受けると述べていた。Ⅳ.考察1.脊椎固定装具装着患者の入院中の日常生活動作における体験本研究により,脊椎固定装具装着患者の入院中の日常生活動作における体験は,頸椎手術患者8つ,腰椎手術患者8つのカテゴリーで構成されており,手術部位安静に伴う禁忌肢位の遵守,日常生活動作における困難,固定装具装着に対する思い,手術による身体への影響に関することであった。筑後ら(2012,p98-102)は,固定装具装着患者の体験として,装具装着による日常生活の不便や不快な体験,それに対する対象者の思いと対処行動などの8つのカテゴリーを抽出していた。また,大口(2013,p147-150)は,固定装具装着時の日常生活動作に関するディストレスとして,苦痛や不快感による不眠,顎や頸部の可動時の苦痛,創部への影響に対する不安,頸部の姿勢に対する気遣いなどの9つのカテゴリーを抽出していた。本研究で抽出された手術部位安静に伴う禁忌肢位の遵守や日常生活動作における困難,固定装具装着に対する思いのカテゴリーと概ね一致していたが,患者が体験していた苦痛として,上下肢の痺れや筋力低下に関する内容が含まれたことは,本研究に特徴的な結果であった。以下,抽出されたカテゴリーについて,頸椎手術患者と腰椎手術患者の共通した体験と特徴的な体験から考察する。1)頸椎手術患者と腰椎手術患者に共通した体験頸椎手術患者と腰椎手術患者に共通して抽出された体験は,【手術部位安静に伴う禁忌肢位の遵守】,【食事動作の困難感】,【固定装具装着の負担と安心感】,【歩行器歩行するときの注意】,【手術による身体への影響】【日常生活動作のサポート】のカテゴリーであった。患者は医師や看護師から指導された禁忌肢位をとらないことを遵守するために,頸椎手術患者は“うつむく動作”や“かがむ動作”,腰椎手術患者は“前屈み”や“腰をねじる動作”を日常生活において“してはならない動作”であると認識していた。しかし,腰椎手術患者は禁忌肢位であると理解しながらも,日常生活の中で〈してはいけない動作をすることがある〉と述べていた。これは,腰椎固定装具は腹腔内圧上昇効果による腰部固定を目的としたもの(髙田,2007,p31-36)であり,頸椎固定装具よりも可動を制限する力が低いことが要因であると考えられる。日常生活動作は長年培ってきた無意識の動作を伴うものであり,腰椎手術患者においては,禁忌肢位を伴う日常生活動作を常に意識しておかなければ,患部の安静を保つことが困難な状況にあるといえる。次に脊椎固定装具装着患者では食事動作の困難性が共通していた。腰椎手術患者の食事動作の困難感は,術後2日間のベッド上安静期間に限定した側臥位での食事摂取によるものであった。しかし,頸椎手術患者の食事困難感の原因には,側臥位での食事摂取だけではなく,頸椎固定装具によって下顎が固定される開口制限も含まれていた。頸椎固定装具は手術後3ヶ月程度継続して装着するものであり,開口制限による食事・飲水の困難は,頸椎手術患者にとって退院後も継続していく課題であると考えられる。脊椎固定装具装着患者は,固定装具による可動域制限や,接触部の疼痛や掻痒感などの不快を感じている一方,〈装着していると安心して動くことができる〉と装具装着による安心感を述べていた。患者は固定装具を負担に感じながらも治療の一環として捉えており,これが禁忌肢位をとらないことを遵守する行動へとつな26