ブックタイトル同志社看護 第2巻

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概要

同志社看護 第2巻

抄録目的:脊椎手術患者に対する日常生活支援の示唆を得るために,脊椎固定装具装着患者の入院中の日常生活動作における体験を明らかにすることである。方法:頸椎手術・腰椎手術を受け,脊椎固定装具を装着している50歳以上の成人・老年期にある入院患者18名を対象に,半構造化面接法による面接調査を実施した。面接時期は退院予定日の2~3日前とし,データはMayringの要約的内容分析の手法を参考に分析した。結果:頸椎固定装具装着患者の入院中の日常生活動作における体験は,【頸部安静に伴う禁忌肢位の遵守】【カラー装着に伴う視野制限】【頸部安静に伴う体動制限】【カラー装着に伴う食事動作の困難感】【カラー装着の負担と安心感】【歩行器を使用するときの注意】【手術後の身体への影響】【日常生活動作のサポート】の8カテゴリーで構成された。また,腰椎固定装具装着患者では,【腰部安静に伴う禁忌肢位の遵守】【腰部安静に伴う食事動作の困難感】【コルセット装着の負担と安心感】【歩行時に転倒しない対策】【歩行器を使用するときの注意】【手術による身体への影響】【禁忌肢位のための日常生活動作の工夫】【日常生活動作のサポート】の8カテゴリーで構成された。考察:脊椎固定装具装着患者は,禁忌肢位をとらないことを遵守することで,日常生活動作におけるあらゆる困難を体験していた。頸椎固定装具装着患者は頚部の可動域制限に加え,視野制限や開口制限も強いられており,日常生活動作の拡大が阻害されていた。腰椎固定装具装着患者は可動域制限による困難な日常生活動作に対し,補助具を使用したり,新たな動作を獲得することで日常生活動作を拡大していた。脊椎固定装具装着患者の課題は,禁忌肢位をとらないことの遵守と新たな日常生活動作の獲得である。患者が安全に日常生活動作を拡大していくためには,危険を早期に予測し回避するトレーニングを,入院前からの日常生活指導に取り入れていくことが必要である。キーワード:脊椎手術,日常生活動作,腰椎固定装具,頸椎固定装具Ⅰ.緒言脊椎疾患患者の手術件数は年々増加しており(厚生労働省,2012),手術適応年齢は高齢者が大半を占めている。脊椎手術後は手術部の安静を保持するため頸部では前屈,後屈,側屈,回旋,腰部では体幹捻転,体幹の前屈,後屈などの動きを制限する禁忌肢位が生じる。そこで患者は禁忌肢位をとらないために頸椎固定装具および腰椎固定装具を装着する。また,脊椎疾患患者は,椎間板の変性や骨棘形成,椎間関節の変性と,これらの変化に伴い発症する脊椎の不安定性などにより脊髄や神経根が圧迫され,術前から疼痛や神経障害が生じていることが多い(飯田,2015,p216)。慢性的に圧迫された脊髄や神経根は機能回復が困難となり,手術後も神経障害が残存することがある。さらに,高齢患者は加齢による筋力低下に加えて,手術前の下肢の疼痛や痺れからくる歩行障害や,術後の安静に伴う筋力低下により,転倒のリスクが高い状態となる。これらのことから脊椎手術後患者の療養上の課題は,「禁忌肢位をとらない」,「転倒しない」ことに注意しながら日常生活動作を拡大していくことである。脊椎固定装具は,骨の癒合が完了する手術後3ヶ月まで装着する必要があり,脊椎手術後患者は習慣化されていない日常生活動作に伴う行動変容を遵守しながら,退院後も安全に療養生活を送っていくことが求められる。そのため看護師は,固定装具を装着することで行動変容を余儀なくされている脊椎手術患者の日常生活における体験を理解し,患者が困難ととらえている日常生活動作に焦点を当てて介入していくことが重要である。これまでの脊椎手術後に固定装具を装着した患者(以下,脊椎固定装具装着患者)の日常生活に関する研究は,脊椎手術患者の睡眠障害の要因(日高・平岡・山中,2013,p51-54)や,頸椎装具装着患者の体験(筑後・月田,2012,p98-102),腰椎手術患者の転倒・転落要因の実態(水口・柴田・大野他,2012,p105-109),頸椎術後カラー装着患者の日常生活動作(大口,2013,p147-150),脊柱管狭窄症患者の日常生活への思い(楊・上里・茅原,2013,p43-46)などが明らかにされている。しかし,脊椎固定装具装着患者が禁忌肢位をとらないことを遵守しながら,入院中の日常生活の中でどのような体験をしているのかを明らかにした報告は少ない。そこで,本研究は脊椎手術患者に対する療養上の日常生活支援の示唆を得るために,脊椎固定装具装着患者の入院中の日常生活動作における体験を明らかにすることを目的とする。20