ブックタイトル同志社看護 第2巻

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概要

同志社看護 第2巻

ることにつながったことが伺える。キャリア教育の実践が学年に応じたそれぞれにふさわしいキャリア発達を形成していく上で,必要な意欲や能力,価値観を育てる役割を果たしたのではないかと考えられる。Ⅳ.新人看護師のキャリア継続への課題とキャリア教育看護師のキャリア開発研修に携わるなかで,新人看護師の課題と思われる事例を取り上げたい。1新人であるがゆえに自分の考えや気持を表現してはいけないと考え,上司や先輩など周りとの適切な関係を構築できず,辛い感情を抱え込んだままにして仕事への意欲喪失や,メンタルヘルス不調に至ってしまう。2学生時代,意欲的に看護に関する学習に取り組んだものの,病院の臨床現場で働くことに適応出来ないと短期的視点で結論づけ,働き続ける意欲を失ってしまう。3看護業務の経験不足や未熟さゆえに起こしたミスから,「看護師に向いていない」と必要以上に自己肯定感を下げ,仕事への意欲や積極性を失ってしまう,などである。これらは離職につながるものと考えられ,看護職として予期せぬキャリアの分断になることが懸念される。職業的自立に向けて必要とされる能力や態度を社会にでるまでに十分身につけていなかったことが原因のひとつではないかと推測される。近年,企業において新卒の早期離職の理由として人間関係を巡る課題といった項目があげられている。約10年間,大学生の相談業務にたずさわる中でも人間関係の悩みをあげる者が少なくなかった。人間関係の構築は,社会において仕事だけでなく,生活する上においても基盤となるものであり,多様な価値観をもつ人々と協働していくには社会に出る前に「人間関係を構築する能力」を身につけておくことが必要である。近年,若者の自己肯定感の低さが指摘されているが,「人は失敗などの経験を通して試行錯誤しながら成長する」という考えをもつことが新人看護師に求められるのではないか。E.シャイン(2016,pp.44-45)はキャリア・サイクルの段階と課題の中で,キャリア初期の正社員の課題の一つとして,「初めての仕事での成功感あるいは失敗感に対処する」ことを示している。失敗により必要以上に自己肯定感を下げてしまうことのないように周りからの支援を主体的に得て課題を処理し,解決する体験を学生時代にしておくことが望ましいのではないか。この体験が仕事をする上で生じる様々な課題に対処する力に結びつくと考えられる。職業に就く前に「課題に対応する能力」を育てておくことが重要である。少子・高齢化社会を迎え,女性の働き方を含め過去に例がない人生設計を考えることが必要となってきている。働くことの意義を理解し,社会における自己の役割や将来設計を考えて職業選択することが,主体的なキャリア形成につながる。ジェンダーの視点から,労働や福利厚生に関わる法律や就業継続/非継続の場合の生涯収入の違いなど,生活と労働に関わる基本的な知識を伝えることなどもキャリア支援の重要な課題である(谷田川,2016,p.165)。自分を取り巻く社会について理解し,女性としてのキャリアを意識した将来設計を考える「キャリアプランニング能力」を育てる取り組みが必要である。職業に就く前の学校におけるキャリア教育を通して,「人間関係を構築する能力」「課題に対応する能力」「キャリアプランニング能力」を身につけることが,新人看護師に起こり得る課題を克服し,キャリアの継続を支えることに有効な手段のひとつだと考えられる。Ⅴ.看護学部におけるキャリア形成支援への提言看護学部学生のキャリア形成支援につながると考えるものを提言したい。1)「キャリアプランニング能力」を育てる取り組みの実施わが国において女性を取りまく社会状況は変わり続けている。一方,学生は社会の現状や問題について自分のこととして自ら考える機会は少ない。現在の生活と労働に関する基本的な知識や待機児童や介護など社会問題などを扱った講義も交え,広い視点をもちながら,社会の中で自己の働き方を考える機会をもつ(谷田川,2016,p.166)ことは将来を展望する上で有効であろう。4