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概要

同志社看護 第1巻

阻んでいると考えられ,それらの要因を詳細に検討していくことが解決の糸口につながると考える。さらに,渡辺・今井・鈴木他(2009,p.332)が指摘するように,認知症の人の判断・理解力を評価する基準や方法および,本人の意思や理解状態の確認方法を確立していくことが必要である。2つ目の,本人が現状に関する正しい認識を持てていない結果,「本人の希望に沿わない」が実際には必要なサービスの決定が行われているケースも多いと思われる。今回対象とした文献でも,本人のサービス拒否に関する記載がいくつか見られた(長谷川,2007,p.19;兪・清水・神部,2012,p.76)。筆者らは,認知症の人と家族の意思決定過程の分析を通して,危機的な状況を本人と共有できず,介護負担が大きくなっていてもサービスを開始できない家族の思いや,本人が納得していないにも関わらずサービスを導入したことによる家族の罪悪感等を抽出した(杉原・山田・武地,2010)。本人の認知能力が低下し,サービス利用の必要性を認識しておらず(長谷川,2007,p.19),本人の納得がないままサービス開始となることも多いとみられる。3つ目の,本人・家族間の感情の軋轢,葛藤については,家族による介護を望む本人と家族の介護負担や介護放棄の問題(沖田,2002,pp.85-86)など,様々な状況が挙げられた。このような感情や長年の家族関係は,変化が困難なものである(渡邊,2005,p.108)。また,家族も「介護を担う者」として,決定における当事者であり,認知症の人と家族の意思決定に関する支援が複雑である要因ともなっている。今回の文献検討から,認知症の人の意思決定における専門員の支援状況として,意思決定の前提である情報の適切な提供が,認知症の人に対して充分行われているとは言えず,意思決定には主として家族の意向が反映されている現状が明らかにされた。そのような状況には,本人の現状認識や,本人,家族間に感情の軋轢等の問題が含まれており,専門員はさまざまなディレンマを感じながらも認知症の人に対して,本人の意思を大切にする考えに基づき,支援を行っていた。今後の課題として,認知症の人の判断・理解力を評価する基準や方法および,本人の意思や理解状態の確認方法を確立していくことが挙げられる。また,居宅介護支援が困難な状況になる要因として挙げられていた意向の不一致や,その調整の困難などの意思決定に関する問題には,認知症という疾患の問題,すなわち,認知症の人の認知能力,判断力の低下の問題が潜んでいるが,そこに限局した調査がほとんどない。今回対象にした意思決定に関する文献も,高齢者について述べたものが多く,認知症の人に限ったものは少数であった。今後は認知症の人とその家族の意思決定に関して専門員がどのように調整を行い,介入しているかの詳細な検討を行っていく必要がある。そのうえで,認知症の人と家族の両者の思い・意向を尊重した支援をいかに行っていくか,専門員個人の対応に任せるのみではなく,指針の作成や研修制度等の支援システムを整備していく必要があると思われる。Ⅴ.結論今後も認知症の人の増加が予想されているわが国では,地域包括ケアシステムを日常生活圏域で実現していくことが重要な政策課題となっている。こうした中,要介護者等に,その人にふさわしい適切な介護サービス,保健医療サービス,インフォーマルサービス等を総合的に提供することが,これまでにも増して求められるようになってきており,介護支援専門員の資質やケアマネジメントの質の向上に対する期待も大きく,介護支援専門員の資質向上に向けた取り組みが行われている(厚生労働省,2013)。地域包括ケアシステムの基本理念である「高齢者の尊厳の保持」のためには,その意思を尊重するための支援・サービス体制構築と適切な情報提供,意思決定支援が必要とされている。しかし,今回の文献検討から,居宅介護支援の困難事例には認知症の人の意思決定支援の困難さがあり,そこに焦点を当てることが重要であるが,意思決定支援に焦点を絞った調査はまだまだ少ないことが明らかになった。今後は,専門員の支援状況を詳細に検討し,当事者である認知症の人と家族の意思が反映され双方が安心で安定した暮らしが実現できるような意思決定支援のあり方を検討していく必要がある。さらに,支援者である専門員の支援システムの構築も重要である。文献相羽利昭,デービスアンJ,小西恵美子(2002):家族が捉えた死の迎え方の倫理的意思決定の過程とその要因の探索.生命倫理.12(1):84-91.安藤こずえ,水野敏子(2015):家族が近隣に居住しているひとり暮らし中程度認知症高齢者への介護支援専門員の支援.老年看護学.20(1):88-96.麻原きよみ,百瀬由美子(2003):介護サービス利用36