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概要

同志社看護 第1巻

認知症の人の意思決定支援に関する文献レビュー知症者のサービス導入期の接し方」,「調整期間が短いサービス調整」,「主治医への利用者の状況等説明」,「独居利用者の在宅療養限界時期の判断」において「福祉職」のほうが「看護職」より困難感が高かった。「認知症高齢者へのサービス導入期の対応」で「その他」が「看護職」より高かった。経験年数では3年未満が3年以上に比べ,「身体・精神疾患をもつ介護者への対応」,「認知症者のサービス導入期の接し方」等の項目で困難感が高かった。安藤・水野(2015,p.36)は一人ぐらしの中等度認知症高齢者への専門員の支援内容を6事例(介護福祉士5名,看護師1名)から分析し,看護師は「危機回避できないことを補う」関わりを行い,介護福祉士は「快に感じる体験を通して支援導入を図る」関わりをしたと述べている。Ⅳ.考察今回の分析に用いた文献11件の掲載誌を見ると,介護福祉学,社会福祉学,看護学,精神医学と多分野からの報告がみられた。専門員の基礎資格別にみると当然ではあるが,いずれの分野でも調査の必要性があることを示すものと思われる。しかし,その一方で認知症の人に対する意思決定支援に焦点を絞った調査は少数であり,多くみられたものは困難事例や困難状況を検討している文献であった。困難事例や困難状況を引き起こす要因として,困難感の度合い・頻度ともに高いものが,意向の不一致や,その調整の困難などの意思決定に関する要因であった(斎藤・佐藤,2006,p.10)。また,意思決定に関する困難感は,基礎資格,経験年数,性別などの専門員の特性による差は見られず(安藤・水野,2015,p.95;斎藤・佐藤,2006,p.12;吉江・齋藤・高橋,2006,p.36),すべての専門員に共通した困難要因であるといえる。しかし,意思決定に焦点を絞った調査はほとんど見られず,今後は事例を困難にさせている隠れた要因が意思決定に関する問題である事を意識し,意思決定に関して専門員がどのような調整・介入を行っているか検討する必要があろう。困難感の高さ・頻度ともに高かった「意向の不一致」には,本人対家族介護者,家族間,あるいは本人や家族対専門職など複数の図式が存在し,それぞれによって調整方法も異なるはずであり,詳細に検討していく必要がある。特に,本人対他者の不一致にはいくつかの問題がある。麻原・百瀬(2003,pp.91-92)は高齢者の意思決定には「介護サービス利用の意思決定に対する他者の影響」の問題があり,その内容として「当事者不在」,「家族の意向による決定」,「専門職や事業者の意向が関与」を挙げている。これらは関連しているものと思われるが,もう少し詳細に検討する必要があると思われる。すなわち,「当事者が不在」で「家族や専門職等の意向」が関与している場合にも,その様相は一つではなく,第1に利用者本人への説明や意思確認が行われておらず,当事者である本人が「蚊帳の外」である場合,第2に本人に正しい現状認識ができておらず「本人の希望に沿わない」決定が行われている場合,さらに本人,家族間に感情の軋轢,葛藤がみられ,家族の意向が優先されている場合,の3つが想定できる。まず1つ目の,本人への説明や意思確認ができているか否かについては,11件の文献中,本人に対する説明・同意に関する現状を調査したものは2件のみで,2009年(渡辺・今井・鈴木)と2014年(伊藤・近藤・伊藤)に行われている調査であった。両者とも半数近くが本人への説明をしていない,あるいは,本人の同意を得ていないという結果であった。そもそも介護保険制度は,介護サービスの選択に利用者本人の意向を反映する利用者本位の制度が理念の一つであるが,制度開始から14年経ってもそれが実現されているとは言い難い状況が明らかになった。またこれらの調査でも,本人への説明・同意が行われていない背景には触れられていない。渡辺・今井・鈴木(2009,pp.328-329)は,説明を行っている認知症の人の日常生活自立度の上限を調査しており,それによると,ランクⅠまでが1割弱,ランクⅡa・Ⅱbまで,ランクⅢa・Ⅲbまでがそれぞれ4割弱であり,ランクⅣ以上が2割弱であった。このように認知症の重症度が上がるにつれ,説明や同意を得ることが困難になることは予想されるが,それ以外にも要因はあると思われる。例えば,認知症の診断を得ることで,本人に説明してもわからないといった先入観を専門員が持つことも考えられる。また,わが国の意思決定の特徴として,医療者や家族に「おまかせ」する傾向がみられる(宗像,1992,pp.230-231;相羽・デービス・小西,2002,p.87)が,麻原・百瀬(2003,p.92)は,高齢者の意思決定についてそのような日本の文化社会的側面が関連し,さらには文化的規範を訪問看護師自身が持ち合わせている可能性を指摘する。それは,専門員にしても同様ではないだろうか。このように,いくつもの要因が関連し,当事者であるはずの本人への説明・同意を得ることを35