ブックタイトル同志社看護 第1巻
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同志社看護 第1巻
認知症の人の意思決定支援に関する文献レビュー生活自立度の上限は,ランクⅠまでが1割弱,ランクⅡa・Ⅱbまで,ランクⅢa・Ⅲbまでがそれぞれ4割弱であり,ランクⅣ以上が2割弱であった。利用者の説明理解の確認方法は視線や表情,うなずき等で判断している専門員が約半数であった。同意を得る相手(複数回答)は,本人と家族からが9割,家族からのみ得ているものが5割以上であった。署名捺印の方法は,本人の了解のないまま家族が代筆するケースが4割であった。これらの結果から,サービス提供に家族の意向が優先されており,本人の意思をできるだけケアプランの中に反映させるよう試みるべきであると述べ,本人の理解力の客観的評価方法や基準の必要性を指摘している。伊藤・近藤・伊藤(2014)は,認知症者へのケアマネジメントにおける,認知症者・家族に対する「意向の確認」「説明・助言」などのプロセスと,主介護者の認知症者への接し方の「好転」の関連を検討した。認知症者に対して「今後の見通し」の説明は約2割,「今後の生活」に関する意向の確認は約4割,「医療方針」に関する意向の確認は約2割であった。認知症者にこれらの説明・確認を行うことや認知症者の意向を確認することで,主介護者の認知症者に対する接し方が好転していることを報告した。これらの文献から,意思決定の前提である情報の適切な提供が,認知症の人に対して充分行われているとは言えず,意思決定には家族の意向が主として反映されている現状が明らかにされた。2)認知症の人への支援から意思決定について言及した文献認知症の人に対する専門員の支援全般の調査から意思決定について言及している論文は1件であった。安藤・水野(2015)は一人ぐらしの中等度認知症高齢者への専門員の支援内容を質的に分析し,「努力して生活している本人を後押しする」,「本人と近隣の安全を守る」,「本人への働きかけだけでは一人暮らしが困難と感じたら家族に助けを依頼する」,「支援の輪を広げて一人暮らしの限界を乗り越えていく」,「本人が支援を受け入れられるように配慮する」の5つのカテゴリーを抽出した。専門員は独居認知症高齢者に対して,一人暮らしだからこそ本人の意思が支援の受け入れに大切であると考え,本人の意思を大切にする考えに基づき,本人のこれまでの生活や個性を尊重するために「努力して生活している本人を後押しする」一方,本人や近隣の安全を守ることも重要であり「本人と近隣の安全を守る」かかわりを行っている,と述べている。3)高齢者の意思決定支援に関する文献高齢者の意思決定支援に関する文献は3件であった。居宅介護支援を受ける高齢者の中には,認知症の人も含まれることから,これらの文献もレビューの対象とした。渡邊(2005)は,居宅介護支援において,本人,家族,専門員という三者の関係の中で生じる意見・判断の相違する構造を探索した。本人と家族のニーズが明確化し,具体的なケアプランの立案・実行に移る過程には,支援の必要性そのものに対する三者の認識の一致と,それに続く方法・手段の段階での一致が必要であるが,本人,家族,専門員の間の認識の一致を阻害する要因があるとしている。その阻害要因として,サービスに関する家族のアンビバレントな感情,本人と家族あるいは専門職と家族との感情的軋轢,介護状況に対する情報量の少なさ,介護者の低い介護意識などを,また促進要因には入院や介護サービス利用の体験を挙げている。沖田(2002)は,介護サービス計画の決定作成における専門員の倫理的ディレンマという視点から,「高齢者の自立性支援」対「援助する義務」,「介護サービス計画における本人」対「家族の不一致」,「在宅介護の継続」対「施設入所」,「異なる専門職間の葛藤」,「組織間関係の葛藤」,「ケアマネジメントにおける情報提供と秘密保持」,「専門員の所属する組織との葛藤」の7つを挙げている。「介護サービス計画における本人」対「家族の不一致」,「在宅介護の継続」対「施設入所」のカテゴリーにおいて,高齢者本人と家族の間で様々な不一致や葛藤があり,家族の都合を優先せざるを得ない状況が多くみられることを報告している。麻原・百瀬(2003)は,訪問看護師を対象に,介護保険サービス利用に関する高齢者の意思決定に関わる問題を調査した。高齢者の意思決定に関する問題として,介護保険制度に関する問題,介護サービス利用の意思決定に対する他者の影響,情報提供不足,サービス量不足,規範の影響,高齢者の能力不足を挙げている。介護サービス利用の意思決定に対する他者の影響には,当事者である高齢者の不在,家族や専門職および事業所の意向の関与が示された。この3件の文献では,高齢者の意思決定において,本人と家族,さらには専門職間の様々な感情の軋轢や葛藤があり,その中で本人の意思より家族の意向が優先されやすい状況であることが浮き彫りにされている。31