ブックタイトル同志社看護 第1巻
- ページ
- 21/48
このページは 同志社看護 第1巻 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 同志社看護 第1巻 の電子ブックに掲載されている21ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
同志社看護 第1巻
地域在住自立高齢者の追跡2年間における転倒経験とその関連要因2003,pp.484-486),安村(1999,pp.1945-1949),江藤ら(2000,pp.43-58)の先行研究において,女性が男性よりも転倒しやすいという結果が散見され,本研究結果と異なっていた。その理由として,本研究の対象が体力測定に参加可能な比較的健康度の高い集団であったことから,運動機能に大きな差がみられなかったためと考えられる。しかし,日常生活上自立した高齢者であっても,2年間の追跡期間における転倒の有無には年代差が認められ,加齢は転倒要因として大きいことが推察された。そのため,加齢に伴う能力の低下を予防する取り組みがますます重要であるといえる。2)追跡2年間での転倒に関連する要因転倒はさまざまな要因によって発生し,年齢,性別,人種,疾患などの生物学的リスク,多剤服薬や過度のアルコール摂取,運動不足などの行動的リスク,家庭や公共施設などの環境的リスク,低所得,教育レベルなどの社会経済的リスクが指摘されている(WHO,2008/2010,pp.7-18;新野,1999;新野・小坂井・江藤,2003,pp.484-486;安村,1999,pp.1945-1949;村木・阿久根・岡他,2012,pp.138-147;三木・嶋田,2011,pp.655-658)。男性では,運動機能,口腔機能,物忘れ,うつ傾向が他の要因と複雑に関連して転倒に影響を及ぼしており,転倒がさまざまな要因によって引き起こされるとする先の研究を裏付けるものとなっていた。とくに運動機能は最も強い要因となっており,他の要因を制御してもなお有意な関連がみられた。運動機能低下と転倒に関しては多くの研究が報告されており(村木・阿久根・岡他,2012,pp.138-147;三木・嶋田,2011,pp.655-658;江藤・久保田,2000,pp.43-58;金,2011,pp.39-41;角田・安保,2008,pp.132:347-371;Rubenstein,2002,pp.141-158;AmericanGeriatrics Society,British Geriatrics Society,andAmerican Academy of Orthopedic Surgeons Panelon Falls Prevention,2001,pp.664-672;木村・奥野・坂本他,2000,pp.91-105),木村ら(2000,pp.91-105)も,地域在住高齢者においてつまづきやふらつきと体力との関連を指摘している。男性の場合,運動能力が低下すると転倒しやすくなり,転倒予防のための取り組みが重要であると考えられる。女性では,うつ傾向,IADLが他の要因と関連しつつ転倒に影響を及ぼしており,とくにIADLは,他の要因を制御してもなお独立して強い影響を及ぼしていた。IADLが高いほど転倒しやすいという一見矛盾した結果であったが,その理由として,女性は日常生活において能動的に行動するほど転倒する危険に遭遇し,そのため転倒機会が増加するとも考えられる。このことから,転倒予防のためには,バリアフリーや環境を整備することも重要であると考えられる。なお,女性の口腔機能は,単独では有意な関連はみられなかったが,独立した要因としては関連がみられ,その理由として,Yoshida,et al(2009,pp.136-139)は,歯を喪失した者ではバランス能力が低いことを指摘しており,女性の場合,口腔機能が低下するとバランス能力に影響を及ぼし,その結果転倒しやすくなるとも考えられた。男性,女性ともにうつ傾向との関連がみられ,抑うつと転倒との関連を指摘する先行研究(三木・嶋田,2011,pp.655-658;田中・久佐賀・牛島他,2012,pp.760-766;American Geriatrics Society,BritishGeriatrics Society,and American Academy ofOrthopaedic Surgeons Panel on Falls Prevention,2001,pp.664-672)があることから,本研究はそれらを支持するものとなった。米国老年医学会,英国老年医学会,米国整形外科学会によるガイドライン(American Geriatrics Society,British GeriatricsSociety,and American Academy of OrthopaedicSurgeons Panel on Falls Prevention,2001,pp.664-672)において,うつ傾向は2.2倍転倒に関与しているとされ,本研究での結果は妥当なものと考える。その理由として,抑うつ傾向を伴う高齢者においては,体幹保持能力や平衡反応能力が低く,四肢の筋肉量も少ないこと,心気性を伴うため転倒不安が強く,医療機関に受診する頻度が多くなり服薬数も多くなることが指摘されており(田中・久佐賀・牛島他,2012,pp.760-766),これらが複雑に関連して転倒を引き起こすものと考えられる。本研究の対象者は比較的健康度の高い自立高齢者であったことを考えると,転倒予防のためには,早期からうつ予防に取り組むことが必要であるといえる。また,転倒には様々な要因が複合的に関連していることが明らかになった。複数要因を有している者の転倒発生リスクは,単独要因に比べ相加的,相乗的に大きくなる(畑山・熊谷,2004,pp.21-30)との報告があることから,心身の要因の相互作用を含めた対策を検討する必要がある。さらに,男性と女性とにおいても異なった様相を呈しており,年代の相違に加え,男女の特性やその背景を把握し,それぞれに即した効果的な転倒予防対策を講じることが必要であると推察された。15