現代社会学部公開講座 第24期 町家で学ぶ京都の歴史と文化 ~第2回 『日本の色 植物から生まれる色』~

2017/05/13

講師:吉岡 更紗[染司よしおか 6代目]

今回は、京都で200年続く染物屋「染司(そめのつかさ)よしおか」の6代目、吉岡更紗(よしおか・さらさ)さんにお越しいただき「日本の色 植物から生まれる色」と題してお話を伺いました。

テーブルには、栗・刈安・黄檗・藍・胡桃などの14種類の自然素材とその植物染料で実際に染め上げられた色とりどりの糸の束が並べられており、部屋中にはほっと心を落ち着かせるようないい匂いがふわりと漂います。ちなみに染色に使われる植物のほとんどは、漢方薬の原料としても使われているものばかりだそう。みなさん「これは一体なんなのか?」とお話しをされたり、写真を撮ったりと講座が始まる前から見たことのない植物染料に興味津々です。

日本では明治初頭から「化学染料」がすこしずつ輸入され、「植物染料」はほとんど忘れ去られてしまいました。現在も流通している商品の99%以上が「化学染料」のものばかりだそうです。しかし、そんな化学染料に頼りきったために失われつつある「日本古来の色」を取り戻そうと4代目の吉岡さんの祖父が植物染料を取り入れ、5代目である吉岡さんのお父様の代から植物染料のみでの染色をはじめられました。6代目である吉岡さんは、この代々続いてきた伝統の技を絶やしてはいけないと思い、勤めていたアパレル会社を辞めて9年前から染色家として日本の伝統色を守られています。

伝統色は植物から染色されます。そのため原料になる植物がないと染色することができません。例えば紫色は、紫ではなくて白い花をさかせる紫草の根を染料としています。この紫草は育てるのが難しく絶滅危惧種に指定されていて、さらに染める為には大変手間がかかるため、一部の高貴な人しか着用することができませんでした。聖徳太子が制定した「冠位十二階」で紫が最高位の色であったようにそれほど貴重な色だったようです。このような時代背景から紫=高貴という印象が根付いたようです。紫根だけでなく、それぞれの色に染める自然素材が、昔は当たり前に使っていたけれど現在では入手困難なものが多いと聞き、自然のものから染色をすることの難しさを知りました。

その他にも「万葉集」や「源氏物語」にも実際に出てくる色にまつわる逸話や染料の由来などを解説していただきながら色の歴史や名前の由来を学ぶとともに、吉岡さんが染められた絹布を実際に見ながらお話を聞くことで微妙な色の違いや濃さを目で実感することができました。このように「染司よしおか」で生み出される色の多くは、平安時代からの歴史書などの書物や文献を読み解いて再現されたものであるというから驚きです。また、平安時代のいい女の条件は、季節を歌に詠み、その季節にあった色合いの衣を身に着けているか、重ね色のセンスはいいかだったというような楽しいお話もありました。昔の人たちは服の色で自分を表現していたそうです。今回、吉岡さんのお話を聞いて日本の伝統色を知ることで日本人の美意識の高さと色彩感覚の豊かさを再確認するとともに、昔ながらの技術と手間と時間をかけてこの美しい色が生まれているということを知り、何百年も続く色を今見ることができる幸せを感じることができました。(東秋穂 GS4)