FDreport_vol15
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7ろいろなものにデータを生み出す小さなコンピューターが内蔵されるようになってきていまして、すべてネットワークにつながります。 情報エコシステム、情報の新しい生態系が生まれます。集積された大量のデータから、本当に意味のあるデータ。全部ごみのようなデータです。ノイズが多いです。相関関係を見出して、本当に何が起こっているかという意味を理解することが必要。その予測を導いたり、相互につながりあっている関係性の全体を見るということです。これが、おそらくは統計教育がデータサイエンスで見る。誤解を恐れずに言えば、私は計算科学者の一人でありますけれども、高度な検定とか分析、推測統計が必要というわけではなくて、相関関係をきちんと探索をして解釈ができる能力がこの中には必要になってきます。 さて、こういったデータサイエンスだけでいいんでしょうか。ヒューマンリテラシーです。これ、ちょっと難しいことを言っていますが、「社会的環境に入る備えを提供し、コミュニケーションの力、他者と関わる力、愛と美に関する人間の能力を活用する」と定義づけられています。 リベラルアーツといいますと昔の一般教育や教養を思われるかもしれませんが、伝統的な人文学にこの中には入っています。美学とか芸術学とか、そういったことも入っているんですね。最近ではデザイン教育が本当によく言われます。 STEAMといいます。STEMに対して、Artを含む。ヒューマンリテラシーは芸術の要素を含むということですが、職場はこれまで以上に人間関係を重視し、協働的になっていきます。知的な作業だけではなくて、効果的な関係性を築けるかがチームの成功の鍵。そのときには日本人だけではないですね。異なる背景、アイデンティティ、信条を持つ人々。今は分断を生む時代になってきています。人種の分断だけではなく、考え方の分断です。完全に敬意をもって、包摂というのはインクルージョンといいますけれども、お互いの信頼関係の上で、学び、協力し、その中で能力を、勝つか負けるかではなくて新しい価値を生み出すためには、お互いに新しい価値を発見していくような能力を最大限に引き出すような、そういった力が必要になります。 倫理の教育の中ではジレンマ問題がよくありますけれども、人間の死につながる状況で、どう機械を使っていくのか。それから、格差を助長させていきます。データを使うとか、機械化されて情報化されている時代では、知っているか知らないかが大きな鍵になってしまう。 その中で、四つの能力です。こういった三つのリテラシーを基盤として、コアカリキュラムとして、高度技術社会。別の言い方をすればピーター・ドラッカーが、知識経済とかナレッジソサエティと予測して、大学がオンライン化になって溶けていくんだということは、69年の予言になっています。インターネットがない時代ですよ。そういうのを高度技術社会というわけですけれども、四つの「高次の認知能力」が出てくるんですね。先ほどのデータリテラシーとも関わってきますが、アイデアを分析し応用し、複雑な系を理解して制御していくというメタスキル。批判的思考とシステム思考です。 そして、ロボットに打ち勝つための力を助けるということで、オリジナルの方法で価値を創造して、いろいろな社会問題を解決する企業を作ったり、企業だけではなくてNPOを作ったりする、それはアントレプレナーシップですね。 そして四つ目が、グローバルな社会の環境で器用に立ち回り、異なる文化の人々がいろいろ持っている課題や状況に持ち込まれるような、多様な理解と価値を正しく認識するというのが、異文化アジリティです。 順番に見ていきたいと思います。批判的思考、これは有名ですね。批判的思考、クリティカルシンキングというのは、ちょっとミスリードされている訳です。クリティカルというのは日本語でいう「批判」ではありません。総合的、多面的にものを見ようということで、「総合的判断思考」というのが科学教育の中では言われていたんですね。 アイデアを分析して効果的な形で適用する。機械、AIたちは、要素で見ればこういう批判的な思考能力を持って高めていると思うんですけれども、なぜその結果が生まれたかを想像する力はありません。いくつもの階層や種類から、こういう批判的思考はあるのですが、事実を理解して問いへ適用する、定量化可能な形式の思考であるともいえます。ただ単純化してデータが整理できたとしても、それ以外の要因、感情とか文化的な反応は考慮できない。 人間だけが、分析して文脈を判断する、両面を評価する能力を持っています。この批判的思考の成功と失敗を分けるのは、仮定を疑えるかどうか。別の言葉で言いますと、問いを立てられるか。問いを問い直すことができるかという、哲学者の考え方かもしれません。 システム思考は、なじみのない考え方です。機械、AIのことだと思ってください。複雑なシステムの要素は理解していて、影響がどんなふうに関わり合っているかは熟知していると思いますが、異なる文脈、違う状況に適用するのは得意ではありません。 デイビット・ストローという方によりますと、システム思考は「望ましい目的を達成するように要素間の相互のつながりを理解する能力」ということで、これは、ピーター・センゲのワークショップを受けたときの本人のメモ

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