1 ◆巻頭言◆ 文部科学省は2018年に「2040年度に向けた高等教育のグランドデザイン答申」を発表 している。その中心的メッセージは「何を教えたかよりも、何を学び、身につけることができるのか」である。このメッセージは、教師中心から学生中心への授業の変化、そして、教師が知識を伝えるのではなく、学生自身が知識を構成し、創造し、獲得するものであるという学習観の変化を示している。果たしてこのような変化は大学の実際の教育にどのように反映されているだろうか。 大学評価研究所による「達成度評価のあり方に関する研究報告書」(2021)によれば、 学習成果の修得状況を測定するために採用された方法として、多くの大学が「定期試験」 「学生の意識・活動調査」「課題の評価」「小テスト」「卒業研究・卒業論文」「卒業後の進路状況」「卒業生調査」を用いていることがわかる。本学も同様である。しかし、「測定・評価に当たってルーブリックの活用」は大学の一部で実施しているものを含めて、全体の 6割弱である。本学では現在各学部・学科でルーブリックの活用に取り組んでいる段階で はあるが、既にルーブリックを有効に使って、レポートや卒業論文の評価を行っている先駆者は存在する。 ただし、ルーブリックの使用は学びの変化に対する形式的な対応であってはならない。確かにルーブリックは一度作成すると、作っていない時よりも評価の信頼性が向上し、評価に時間がかからないという利点がある。ただ、ルーブリックを使うことが目的ではなく、ルーブリックによる評価の結果から授業の目標を再度問い直すことが大切である。目標と評価はお互い密接に関わっている。学習観の変化は評価項目に具体的にどのように反映されているだろうか。目標と評価項目の中に、学生中心の授業の展開に関する項目が入っているだろうか。学生自身が知識を構成し、創造し、獲得することに関連ある項目が入っているだろうか。たとえどんなにりっぱな教育理念、斬新な教育方法や評価方法であっても、それを形だけ採用したのでは学習観の変化には対応できない。 「グランドデザイン答申」以前はすべて教師中心の学習観であったか、と言うと必ずしもそうではない。日本ばかりでなく諸外国において優れた教師は、学習者中心の教育観を既に持って実践していたはずである。例えば、Chikering & Gamson (1987)によれば、学 部学生に対する教育のより優れた実践として以下の7つの原則を取り上げている。 1 学生と教師との連絡を密にする。 2 学生の間にお互いを尊重し協力する機会を増やす。 学学習習観観のの変変化化とと組組織織的的対対応応 学長 飯田 毅 Faculty Development
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