FDreport_vol15
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9杉森 なるほどですね。また、私たち教員にとって今一番異文化に感じているのは、対面授業で通じないオンライン授業の文化。私たち今、異なる状況に置かれちゃったんです。この1年半、すごい対応能力だったんじゃないですか。全員TeamsやZoomを使えるようになったって、すごくアジリティがあると思います。 それから、薬学と看護の先生方もいらっしゃいますので、他職種連携教育については押さえていく必要があろうかと思います。私も理学療法で教えていたこともありまして、インタープロフェッショナル・エデュケーション、インタープロフェッションについてはずっと追いかけております。 職種が違ったら、例えば医者のヒエラルキー、医師困難多発事例っていうんですけれども、医師が正しいと言ったことが正しくないことがあったりします。多職種が一緒になって、小児の、子どもの死亡率を下げるという取り組みがイギリスから始まりました。イギリスでは医師が医師の文化で、看護師、周りの文化の違う専門職同士が対立してしまった結果、乳幼児死亡率がとんでもなく上がったそうです。その反省の中でチーム医療という言葉が生まれ、違う文脈、文化を持った人たちが病院を作っていく。 もっとも変わりにくいのは、学校、自治体、官僚組織、病院。この四つです。文化が違う人たちが交じり合わないという中で、看護についても、今はコアカリキュラム、指定規則が変わりまして、多職種連携教育というのが、今特に入ってきている。これは異文化や国際化の話ではなくて、私たちがさまざまな専門性を持ってしまったがために、たこつぼや、サイロというのは小麦を貯蓄する、もみ殻を入れておく塔ですけれども、あんなふうに分かれてしまった大変な分断の時代だと思うんですね。Black Lives Matterのことを言わずしても、私たちの、日本の中ではそういったことがあるかと思います。 やりとりをありがとうございます。3.経験学習(コーオプ教育)から生涯学習へ それでは後半にいきたいと思います。さまざまな人たちを交ぜていって、異文化アジリティを含めたものを教えていくときに、こういったハンズオンとかPBLというのは、むしろ医療系の科目なんかでとても進んでいるといわれています。 では、経験学習です。さまざまな方を入れていくということで、コーオプを紹介していきたいと思います。 経験がもたらす違いということなのですが、経験学習というのはどういうことかと言いますと、昔のアメリカの哲学者でジョン・デューイという人がいました。その方が提唱したものなんですが、教室の中に現実世界を持ち込みます。伝統的な学習形態とは異なります。これを現代では、世界全体を潜在的な教室や図書館、実験室に見立てます。学生はインターンシップ、企業実習、それから病院、学校での教育実習、医療実習も含むでしょう。コーオプ、企業と一緒にカリキュラムを作る。ワークスタディ。さまざまなところで働きながら学ぶ。それから留学経験ですね。独自の研究課題というのは、卒業研究を含む独自の研究プロジェクトに取り組む。日本で対応する概念としては、職業統合型学習、Work Integrated Learningという言い方がありますが、目的を持ってデザインされたカリキュラムの中で、理論と職業実践を統合する。まさに実習に出かけていく、フィールドワークをするというのは、こういったものなんですね。意識的に行われてきたかといわれれば、職業と統合されるという考え方はあまりない部分もあったかと思います。 有名なところでは、経験学習サイクルがあります。具体的な経験をしてみて、まずやってみて、何が起こったのかを振り返って、それを理論化し、新しいところに持ち込む。PDCAとちょっと違うのですが、経験学習というのは振り返りのことです。例としてこういうふうに書いていますが、実際コーオプで何をやっているかです。株価の上昇を知る、それに気づく、6か月以内に計画して株価を上げるかもしれない、株価が上がるかどうかを確かめようと考える、みたいなことが書かれていますけど、これ実際に学生がその企業に行ってやるわけです。これは訳書の中で紹介されているものとはちょっと違うのですが、ほぼ同じものです。 なぜ経験学習が効果的かといいますと、学習科学の文脈です。要素技術を獲得しても、うまく実社会、実生活に役立つとは言い難い。与えられた文脈に統合し、さまざまな文脈に適用するというのは、転移の原理といわれています。 自転車の運転を想像してください。無意識的無能というのは、私たちは自転車に乗ることが分からないという。どうすればうまく乗れるのかわからないというのは、Unconsious Incomptencyと書いていますが、無意識のうちにできない。ところがだんだん、サドルがどこ、ハンドルがどこ、と意識しなくても、うまく有能感があふれていって、最後は歌いながらというんですかね。車の運転とか自転車の運転なんかも、意識せずにまっすぐ動いているじゃないですか。なので、自然にできるというときには、試行錯誤を繰り返しながら実際にやってみないといけないということなんですね。自転車の運転でたとえられます。 そして、そのときには失敗を恐れてはいけないので、マインドセットと呼ばれるのが、失敗したら罰せられるとかっていう、硬直、カチカチ、コチコチマインドセットというものから、失敗したら自分がよくなるという、しな

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