2012年7月

2012/06/28

 この世に生まれいずる「あかちゃんの笑顔」は大人に勇気を与えてくれる。そして、親はその子の幸せを祈り、「なまえ」を授け、その子の「みらい」をこころに描く。非日常のようなことが起こったとき、なおさら、「生まれてきてくれてありがとう」という思いが人一倍となる。並河進氏が編集された『ハッピーバースデイ3.11 あの日、被災地で生まれた子どもたちと家族の物語』に登場する11組の親子のあつい思いが、ひしひしと読者の私たちに伝わってくる。

 「春晴(はるせ)」君への、「春みたいに心のあたたかい子に育ってくれたら。春が来るたび、自分の名前を見て、自分の生まれたことを幸せに感じてくれたら…」というパパ、ママのメッセージ。予定日より早い出産で、パパも仕事を休み、出産に立ち会い、ご自身命拾いをされ、「この子が笑っていると、何もかも忘れられる」と語っておられる。また取材を終え、「春晴」君を抱かせてもらった並河氏は「温かく、小さな命の重みが、腕を通して伝わってくる。無邪気に笑うその姿は、絶望に沈むこの国に、神様が密かに遣わしてくれた天使のようだった」と記しておられる。

 また輝道(てるみち)くんのママは、「こんなにたくさんの人が亡くなっているときに、生まれてうれしいって言葉を言っていいのか、すごく不謹慎なのかなと思って、なかなか連絡できなくて。でも、生まれたという話をすると、こんな中で生まれたんだから希望だよってみんなに言ってもらえました…」「輝という字がなんか良いねって2人で言っていて、もうお腹の中にいるときから輝道にしようと話していたんですが、生まれた日が震災で、なおさら合っていると思いました…感謝の気持ちを持って、命の大切さを分かるような子に育ってほしいです」と語っておられる。

 一方で、小さなこどもたちの成長を、毎日毎日あたたかなまなざしをもって見つめ、そのこどもたちの未来をともに描いていた多くのおとなたちはあたたかいいのちのいとなみを続けていた。が、その「こどもたちも/おとなも」、ともにあの日あっけなく永久の眠りにつき、その未来への夢がたちきられたのである。脱ぐいようのない悲しみにつつまれた残された家族が多くおられた。

 この「いのちのいとなみ」の足跡。しかし、すべてのいのちからも、残された人々に多くの励ましのメッセージが託され、同時に新しく生まれた「あかちゃん」も、いのちの重みを肩においながら、周りにいる人々に多くの勇気と希望をあたえてくれるのである。これらの「やさしさ、あたたかさ、ちから」の連環があるからこそ、人は一人ではなく、人とともに生きることのよろこびを感じることができるのであろう。

 これからも、日本全国、そして世界中の人々が、この「いのちのおもさ」をともに受け止め、「あたたかいいのち」を次世代に伝えていきたいものである。 

                                                                       (ひつじ)