2017年4月 今月のことばを掲載しました。

2017/04/07

新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。そして、在学生の皆さん、新しい気持ちを抱きつつ、春学期を迎えていることでしょう。  

 さて、2017年度の宗教部年間テーマは、「ともに泣き、ともに喜ぶ―他なる(あなた)を想うこと―」です。宗教部のスタッフと共に模索した結果、今日的状況下にあって、重要な問いを秘めた魅力的な表現となりました。聖書には上記の表現があります。ただ日常生活の中で、共に喜び共に泣くことは意外と難しいことであります。他の人の喜びは、必ずしも自身の喜びへ直結しません。ときには、羨望や嫉妬の的となります。卑近な例でありますが、友人の成功談が私たちの心に傷を与えることもあります。また、他者の失敗は甘い蜜として響くことがあります。しかし、このような人間の現実を見つめるがゆえにこそ、この言葉が私たちに響いてきます。聖書は具体的な人間の不完全さや矛盾に誠実に向き合いつつ、その只中に新しい世界を切り拓こうとします。他者を羨望の対象とする私自身への向き合い(卑下、傲慢)が問われているように思います。「他なる(あなた)を想う」との行為は、その前提に私自身の自己理解と誠実に対峙することが大切であるのかもしれません。

 昨今、私たちは自分に都合よく、「自分が欲するように世界を理解する態度(佐藤優『知性とは何か』)」にどっぷり遣っています。「私的に無理〜!」という表現を用い、自己の判断基準のみを絶対化する姿勢や、「ググる(Google検索)」と語られる自己中心的傾向は、まさに「自分の欲する事柄」のみへの関心を増長させます。結果、私的な「小さな物語」の中だけで、全てを推し量ろうとする傾向へと陥っているように思います。ここには真の自己理解は創出しません。同時に、「共に喜び、共に泣く」関係も創出しません。私たちが自分自身に誠実に出会うためには、「大きな物語」の中で自身を再検証することが必要であるのかもしれません。私だけの都合良さや欲する思いから解放され、多様な視点から自身と他者を見つめることが必要なのでしょう。「絶対に正しいことは複数あるのです。だから、他人の気持ちになって考えることで、人間はお互いをゆるしあえる寛容の精神が生まれます。(佐藤優「心のページ」『毎日新聞』)」との語りに耳を傾けたく思います。そのためにも、私自身と異なる価値観を生きる他者との出会いを大切にしたいものです。他者との表面的な同調関係(「いいね」関係)に身を置くことは一時の安心・安全との思いを育むのかもしれません。しかし、その場には自己の既存の発想を転換する「新しさ」は創出しません。結果、深い他者理解も自己理解も育まないように思います。熱狂性や集団性と距離を保ち、異なる他者の到来を迎え、その差異性や複雑性に耐える時、真の知性が育まれていくのかもしれません。その只中で、異なる他者は自分には無いものを学び得る隣人として立ち現われてきます。

 どうぞ、キャンパスに吹く新しい風の中で、様々な出会いを大切にしてください。人との出会いだけではなく、豊かな「智」との出会いを尊重したいものです。

追記:

講義やサークル等と同様に、学期中、毎日行われる礼拝(年間300回強)の時は、多くの出会いの場であるのかも知れません。人、言葉世界、そして真理との不思議な出会いを期待しております。

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