2017年1月 今月のことばを掲載しました。

2017/01/06

 新年あけましておめでとうございます。
 新しい年も、皆様お一人お一人にとって実り多い年になりますことを願っています。
 さて先日、たいへん心和む童話に出会いました。高齢社会を象徴したホッとするお話です。「小さな駅の待合室」(第45回JX-ENEOS童話賞作品集 童話の花束 最優秀賞)という童話です。許可を得て一部抜粋しながらご紹介します。

 そこは田舎の小さな駅。駅の待合室に上品な着物姿の初老の女性・春子がボンヤリと座っている。
 駅の前にタクシーが止まり、やはり上品な初老の紳士・明男が降りてくる。明男はゆっくりと待合室に入り、春子に、「こんばんは」と声をかける。「隣に座ってもいいですか?こんな時間にどこかへお出かけですか?」と、明男は駅の壁の観光用のポスターを見ながら口にする。「どこかへ行くつもりだった気もするけど、思い出せないんです。貴方もどこかへ行かれるんですか?」「私はどこへ行けばいいか分からないんです。」「じゃ、私と同じようなものね。」と春子は静かに笑う。「本当は私、作家なんです。って言っても、有名って訳じゃありませんけど。」「実は私は画家なんです。もちろん、有名な画家って訳じゃありません。・・待合室に座っている貴女を見て、ぜひ私の絵のモデルをお願いしたくて」「でも・・。もう年ですからヌードは無理です。」「初対面の女性にいきなりヌードをお願いするほど、私は非常識な男じゃありません。私はその方の人生を含めて絵に描く画家なんです。・・・2人は、冗談を言いながらゆっくりと話しています。
 駅の改札口から、駅員が困った顔で待合室に入ってくる。
 「もう終電は出てしまいましたから、待合室を閉めたいんです。」「そうですか。じゃ、私達は家に戻りましょう。」と、明男は優しく春子の手を取る。「貴女と一緒に、ですか?」「ええ、私達は夫婦なんです。私は貴女の夫です。」明男は再び満面の笑顔で春子を見つめる。「そうだったんですか?私にこんな素敵な夫がいたなんて知りませんでした。」「忘れてしまっていたのなら、思いだせばいいだけのことです。」「でも、自分の夫のことまで忘れてしまうなんて、私はどこか病気なのかしら?」「大丈夫、大丈夫。何の心配もありません。私は貴女の夫であると同時に医者でもあるのです。」「あら、そうなんですか?」「私が必ず貴女の病気を治して差し上げます。」明男の笑顔に安心したのか、春子は明男の肩にそっと寄りそう。
 ふたりは静かに田舎の夜道を去っていく。

 これからますますすすむ超高齢社会は、日本にとって避けることのできない現実となっています。うれしいことも苦しいことも多々あると思います。自分を含め、高齢者と高齢者に関わるすべての人々が、心穏やかに過ごすことができるよう願っています。
                                                                (Plum blossom)