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※所属・役職は掲載時のものです。

「ケーテ・コルヴィッツ展」を見る

2005/10/01

服部 尚己   (現代社会学部教授)

今年の4月から「日本におけるドイツ年」ということで、大小様々な行事が日本全国で展開されている。しかし、この「ドイツ年」は、興味のある催しが多々あっても余り遠くてはなかなか行くことができないという不便がある。東京で行われている催しが多いのである。しかし私は、この展示会だけは東京まででも行った。ベルリンまで行くよりは近いではないかと思って。それが「ケーテ・コルヴィッツ展」である。

ケーテ・コルヴィッツというのは、ドイツではとてもよく知られた女流芸術家である。ドイツ人らしい暗い重々しい画面のエッチングやリトグラフなどの作品を多数残した。彼女は第一次世界大戦で次男ペーターを失った。そして続く第二次世界大戦では孫のペーターを戦死させた。それだからか、彼女の作品の画面はどれも暗いのである。「窮乏と貧困の恥辱」「死と女」「戦争」「死が少女を膝に抱く」「女と死んだ子供」「嘆き」などのテーマの作品が延々と続く。そしてそれらの作品の画面を見た後には、ずっしりと重い印象が残るのである。これらの作品を見た後でなお、われわれはイラクで起こっている戦争に加担する立場をとり続けることができるのであろうかと思う。彼女の父親はこのような作品をつくり続けるケーテに、「人生には楽しいこともあるのに、どうして暗い作品ばかりつくるのか」と嘆いたという。
そのケーテが住んでいたあたりの広場が今では「コルヴィッツ広場」と呼ばれて、ここに立ち並ぶレストランに人々が夜でもやってきておしゃべりに興じ、笑い声が起こるベルリンの名物の場所となっているというのはとても皮肉な現象である。しかし次のケーテの言葉を知れば、けっして皮肉な現象などではないことが分かる。
ケーテは孫娘のユッタに次のような言葉を残したという。「いつか一つの理想が生まれるだろう。そしてあらゆる戦争はおしまいになるだろう。 ― この確信をいだいて私は死ぬ。そのために人は非常な努力を払わねばならないが、しかし、かならず目的は達成するだろう。平和主義をたんなる反戦と考えてはならない。それは一つの新しい理想、人類を同胞としてみる思想なのだ。」

この「ケーテ・コルヴィッツ展」は7月16日から8月21日の日程で茨城県のつくば美術館で開催された。11月2日から12月24日の日程でこの展示会は姫路市立美術館でも開催される。