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教員によるコラム

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※所属・役職は掲載時のものです。

薬害防止教育を実施しました

2018/12/21

眞鍋えみ子(看護学部 看護学科 教授)

薬害被害者の方々を講師として招き、薬害教育を行う大学が増えているなか、本学看護学部でも「母子保健看護概論」「看護実践総合演習Ⅳ」の講義の一環として2年次および4年次生を対象に薬害防止教育を行いました。今回、取り上げたテーマは、陣痛促進剤です。本学は女子大学であり、学生の多くは将来、結婚や妊娠・出産・子育てといったライフイベントを経験し、産科や小児科における医療の消費者となることから、本テーマを選択しました。

講義は、勝村久司先生にお願いしました。先生は、1990年にご夫婦の第1子出生の際の陣痛促進剤による医療事故をきっかけに市民運動に関わっておられ、現在は、医療情報の公開・開示を求める市民の会の代表世話人や全国薬害被害者団体連絡協議会の副代表世話人をなさっています。

講義では,奥様が妊娠38週の妊婦健診で「分娩の前徴があるから入院しましょう」と指示を受け、入院したところ「子宮口を柔らかくする薬です」という説明で陣痛促進剤の内服が開始されたこと、間断のない陣痛を訴えているにもかかわらず「しゃべれるならまだ陣痛は弱い」といった医療者の判断により、陣痛促進剤を追加投与されたこと、出生したお子様は、5分後のアプガースコア*1が1点であったこと、出産後も弛緩出血で子宮全摘手術を受ける準備が進行するなか止血できたこと、子宮口が全開していないのに努責(いきんで)してしまい、子どもに大きなダメージを与えたと母親である奥様は自責の念にかられたこと、星子ちゃんと名付けられたお子様は9日目に天に召されたことなどの奥様の体験とその悲しみや悔しさを夫であり父親、そして家族の立場からご紹介いただきました。

そして、陣痛促進剤被害に至るケースの共通点を医療者の十分な説明がないまま投与された、産婦さんが異常や苦しみを訴えてもしっかりと受け止めていない、これらが陣痛室や分娩室という閉鎖された密室で行われることを指摘されました。さらに、その背景に医療機関の人件費削減、薬価差益増、患者増などの利益優先の価値観、1974年から、産科医には陣痛促進剤による被害の警告書(薬剤の感受性の個人差が大きいことが記載)が配布されていたものの、消費者である妊産婦にはその情報は公開されていないこと、保健体育の教科書や母子健康手帳・母親教室テキストにおいても、多くの妊婦に使用されている陣痛促進剤について取り上げられていないなどの出産前教育が充分でないことを指摘されました。

また、運転免許証の交付や更新時には、交通事故例から学ぶと同じように、薬害もどのような事故が多いのかを知っておくこと、すなわち過去のアクシデントから学ぶことにより加害者や被害者とならないためには何に気をつければよいかを学んでほしいこと、陣痛促進剤以外の薬害についても薬害被害者の意見や体験を直接聞く機会以外に、その体験記を読んで学習してほしいことを学生達に力強く伝えられました。

受講した学生からは、看護職としては、丁寧なインフォームドコンセント、薬剤の副作用や使用方法・適切な投与量を勉強する、薬剤投与などの治療目的と適応を考える、薬剤使用中や使用後の観察をしっかりする、患者様の訴えや気持ちに寄り添う、陣痛促進剤の事故についてもっと広く知られるべきだ、などの感想がありました。一方、医療の消費者としては、疑問に思ったときは説明を求める、自分でも情報収集する、診療明細書でも行われた医療行為を確認する、納得して治療を受ける、お任せや受け身の患者にならない、セカンドオピニオンも活用する、薬剤の添付文書をしっかりと読む、万が一薬害が生じた際には被害が拡大しないように働きかける、などの感想がありました。

薬害被害にあわれた方やその家族の意見・体験などを直接拝聴することにより、薬害被害の視点からに医療現場に潜むリスクについて理解を深める機会となりました。さらに看護職に求められる知識や態度、行動を考える機会となり、専門職者としての責務への自覚 につながったと思われます。今後も薬害被害者の方々のご協力が得て、その声を直接聴かせていただく機会を設けていきたいと思っています。

来年の4月には、4年次生の多くは看護師として病院に就職します。卒業生が就職した医療機関の組織文化に適応しながらも、本学で学んだ「いのちとむき合う揺るぎない信念と良心」を大切に、患者様に向き合い、安全・安心で質の高い看護を提供できる看護職に成長してくれることを期待しています。

 

*1アプガースコアとは、出生時の新生児の健康状態を10点満点で評価したものです。出生後1分、5分の時点で皮膚色、心拍数、刺激に対する反射、筋緊張、呼吸の5項目について評価します。7〜10点は正常、0〜3点は重症仮死(新生児に蘇生術が必要)です。